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2020-01-30 (Thu)  13:11

『他人の顔』 安部公房

ある日の夕刊記事・・
社会で起きている問題や話題になっていることなどを、それに関連する本を紹介しながら掘り下げていく、というコーナーがあるのですが、この日取り上げられたのは、顔の症状をめぐる苦悩(いま「見た目問題」と言われています)、そして紹介されたのが、安部公房の『他人の顔』でした。
P1013173.jpg
本の内容 実験中に液体空気が爆発し、顔に損傷を負った主人公は「顔とは何か」と自問自答を繰り返しながら、自作の仮面をかぶり「他人の象徴」である妻を誘惑する。素顔の自分、妻との「三角関係」に苦しむが、妻は仮面の正体を見破っていた。  <新聞に掲載されていた紹介文>

この紹介文を読み、興味本位で読み始めました・・・が、安部公房の言葉、文章の力強さに、はなから圧倒されっぱなし、振り回されっぱなしでした。
そして、安部公房の巧みな比喩表現により主人公の苦悩、孤独感がひしひしと伝わってくるのでした。

主人公は、顔なんて体の器官にすぎない、と強がって見せながらも、顔を失ったことで他人との通路が閉ざされてしまったことにひとり苦しみます。
愛想の壁でさえぎられてぼくはいつも完全に孤独だった<本文より>
苦悩を断ち切れない自分がやりきれない<本文より>

抱えている苦しみを誰かと共有することで、救われたり、気持ちが楽になるってことありますよね。
主人公にはそれが全くなくて、顔を失ったことで、妻にも拒否されてしまうんですね。多分妻からの拒否が主人公を完全な孤独に追いやったような気がします。

ぼくの苦しみは他人と共有し合える要素が全く欠けている<本文より>

主人公は、人種差別問題は社会問題になりえても、自分の苦しみは個人の問題にとどまるしかないと嘆きます。

確かに顔って、身体的な器官にすぎないのだけれど、でも、私たちは「顔」を通して人と関わろうとしますよね。顔の表情からその人の心情を読み取ったり察したりします。
主人公は「他人との通路を回復する」ために仮面をつくるわけですが、顔がないと他人と通じ合えないのかな、とか、じゃあ目の不自由な人は?とか、整形してすっかり顔が変わってしまった人はそのことで人との関わり方や内面が変わったりするのかな?とか、いろいろと考えてしまいました。

そして、実際、顔の症状のために苦しんでいる人たちもいるわけです。
いま「見た目問題」とも言われています。
多くの人が「そういう苦しみの中にいる人もいる」という認識をもつことで、個人的な問題にととまるのではなく、社会の問題となれば、苦しんでいる人たちの状況を少しは変えることができるのかな・・と考えました。

小説ですが・・・途中、かなりくどい部分があり、また文章表現が難解で、私の頭の中は何度も「?」となりましたが、読み終えて、またすぐに最初から読みたくなり、2度立て続けに読みました。

とにかく比喩表現が秀逸です。
時折「?」という表現もありましたが・・
例えば、「水にひたした兎の皮のようなしなやかな指先」(←これは妻の指を表現したもの)
「ぼくの心は、生干しのいかの身のように、べろりと、冷たく、塩辛かった」(←どんな心??)

とにかく、いろいろなことを考えさせられた小説でした。

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最終更新日 : 2020-01-30

最初の入り口 * by おんだなみ
普段、顔について、深く考える事はありませんが、
人との関係の、最初の入り口と考えると、
とても深いモノがありますね。
特に初対面の相手には、顔から色んな情報を収集しようと
するでしょうから。
もし、自分の顔が、何かの事故や病気で大きく変化してしまったら、
それまでの自分で居られるのか?
等と、色々と考えてしまいます。
この小説、かなり興味がありますが、結構手強そうです。

Re: 最初の入り口 * by green
そうなんですよ。いろいろと考えさせられる小説でした。
でも、実際顔の症状で苦しんでいる人もいらっしゃるんですよね。

読みごたえはありますが、かなり手ごわいのは確かです!

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最初の入り口

普段、顔について、深く考える事はありませんが、
人との関係の、最初の入り口と考えると、
とても深いモノがありますね。
特に初対面の相手には、顔から色んな情報を収集しようと
するでしょうから。
もし、自分の顔が、何かの事故や病気で大きく変化してしまったら、
それまでの自分で居られるのか?
等と、色々と考えてしまいます。
この小説、かなり興味がありますが、結構手強そうです。
2020-02-01-07:57 * おんだなみ [ 編集 ]

Re: 最初の入り口

そうなんですよ。いろいろと考えさせられる小説でした。
でも、実際顔の症状で苦しんでいる人もいらっしゃるんですよね。

読みごたえはありますが、かなり手ごわいのは確かです!
2020-02-03-21:34 * green [ 編集 ]